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Research Content

研究内容

​●研究背景 − 高齢者のフレイルとライフスタイル −

 我が国で少子高齢化問題が議論されるようになって久しいですが、地域包括ケアシステムの構築や社会保障・税一体改革は、団塊の世代(約800万人)が75歳以上となる2025年を念頭に進められてきました。その一方で、高齢者数がピークを迎え、現役世代が急減する2040年頃を見通し、新たな政策課題が検討されています。

 フレイル (Frailty)とは、加齢に伴う様々な機能変化や予備能力低下によって健康障害に対する脆弱性が増加した状態とされます 1,2)   フレイル対策による健康寿命の延伸は、高齢者の就労・社会参加の環境整備などとともに社会保障改革の重要課題の一つとして位置付けられています。フレイルは、筋力低下に代表される身体的問題だけでなく、抑うつなどの精神・心理的問題や閉じこもりなどの社会的問題を含む多面的な概念であり、相互に影響しながら全身の脆弱性を進させます(図1) 3)

 フレイルを抑制する保護因子には、身体活動 4)のほか、食習慣 5)(たんぱく質  、野菜・果物の摂取)や社会参加 6)などが報告されています。  そのため、フレイルの予防・改善には、運動療法に限らず、これらのライフスタイル全般について変容を促す介入を含むことが望ましいと予想されます。

 

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図1 フレイルの悪循環の一例
研究内容2

●介護予防・フレイル対策のためのヘルスリテラシー

 従来、介護予防の手法は、機能回復トレーニングに偏りがちで、事業終了後も活動的な状態を維持するための取り組みが不十分でした。これに対して、住民主体の“通いの場”の創出や、“行動変容”を促す仕掛けが、健康寿命の延伸に向けた新たな手法として提案・実行されています。このため、地域の環境や、健康づくりに対する個人の意欲・行動力を「育てる」視点を持つことが、フレイル対策において重要になると考えています。

 

 本研究室では、フレイル対策のための、より効果的な介入プログラムの中核として、「健康情報を獲得、理解、評価、活用するための能力・意欲」を指すヘルスリテラシー(Health Literacy)と、それを向上する手段としての健康教育に着目しています。

 

 健康情報の読み書き・読解能力が低い、すなわちローへルスリテラシー(Low Health Literacy)の状態は、日常生活動作の自立度低下や死亡のリスクを増加させることが報告されています(図2) 7,8)  。

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図2 ローヘルスリテラシーによって生じる健康障害
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 ヘルスリテラシーへの介入(Health Literacy Intervention)により、身体活動・食習慣のようにフレイルと関連の深い健康行動を促進する効果が得られることを期待し(図3)、以下のような研究を行っています。

図3 ヘルスリテラシーへの介入により期待される効果(仮説)
研究内容3

●『健康づくり力(≒ヘルスリテラシー)を育てる』介護予防・理学療法

 私たちは、高齢者を対象とした健康教育介入によってヘルスリテラシー向上、身体活動促進、さらに心身機能の改善の効果が得られることを、ランダム化比較試験により報告しています 9)

 

 介入の特徴として、従来の一方向性の講義形式と異なり、主体的な学びを促進する手法として教育分野で注目を集める「アクティブ・ラーニング」を、健康教育に応用しました(図4)。アクティブラーニング型健康教育は、個人が元々持つ資源であるヘルスリテラシーを伸ばし、高齢者が自ら、そして互いに協働して学び、健康づくりに主体的に取り組むことに重きを置くものです。

 

 上記のような科学的検証だけでなく、地域での汎用化に向けてプログラムを改良し、実践的な取り組みを行っています。具体的には、①一連の学習内容を一冊に含めた専用テキストを作成すること(図5)、②地域住民をファシリテーター(教室の進行役)として養成すること、により専門家の常駐を必要としない、住民主体で実施可能な学習スタイルを実現することを目指しています 10)  。

図4 アクティブラーニング型健康教育の流れ
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図5 テキストの各ページの基本構成

文献

1. 荒井秀典: フレイルの意義. 日老医誌 2014, 51(6):497-501.

2. Fried LP, Tangen CM, Walston J, Newman AB, Hirsch C, Gottdiener J, Seeman T, Tracy R, Kop WJ, Burke G et al: Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2001, 56(3):M146-156.

3. Robertson DA, Savva GM, Kenny RA: Frailty and cognitive impairment--a review of the evidence and causal mechanisms. Ageing Res Rev 2013, 12(4):840-851.

4. Yuki A, Otsuka R, Tange C, Nishita Y, Tomida M, Ando F, Shimokata H, Arai H: Daily Physical Activity Predicts Frailty Development Among Community-Dwelling Older Japanese Adults. J Am Med Dir Assoc 2019, 20(8):1032-1036.
5. Feng Z, Lugtenberg M, Franse C, Fang X, Hu S, Jin C, Raat H: Risk factors and protective factors associated with incident or increase of frailty among community-dwelling older adults: A systematic review of longitudinal studies. PLoS One 2017, 12(6):e0178383.
6. Haider S, Grabovac I, Drgac D, Mogg C, Oberndorfer M, Dorner TE: Impact of physical activity, protein intake and social network and their combination on the development of frailty. Eur J Public Health 2020, 30(2):340-346.

7. Berkman ND, Sheridan SL, Donahue KE, Halpern DJ, Crotty K: Low health literacy and health outcomes: an updated systematic review. Ann Intern Med 2011, 155(2):97-107.

8. Smith SG, O'Conor R, Curtis LM, Waite K, Deary IJ, Paasche-Orlow M, Wolf MS: Low health literacy predicts decline in physical function among older adults: findings from the LitCog cohort study. J Epidemiol Community Health 2015, 69(5):474-480.

9. Uemura K, Yamada M, Okamoto H: Effects of Active Learning on Health Literacy and Behavior in Older Adults: A Randomized Controlled Trial. J Am Geriatr Soc 2018, 66(9):1721-1729.

10. 上村一貴,山田実,岡本啓: 高齢者の介護予防を目的としたアクティブ・ ラーニング型健康教育の地域実践 ─住民主体による取り組み─. 理学療法学 2019, 46(6):275-282.

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